顔認証(顔認識)とは
顔認証とは、それぞれの顔から本人であることを識別または確認する方法のことです。顔認証システムは、写真やビデオの顔から、また、リアルタイムでもその顔から本人を識別するのに活用されています。
顔認証は生体認証セキュリティに分類されます。生体認証ソフトウェアには、他に音声認識、指紋認識、網膜や虹彩による認識などがあります。この技術は、さまざまな分野で関心が高まってはいるものの、主としてセキュリティと法執行の分野で活用されています。
顔認証の仕組み
多くの人が、iPhoneのロック解除に使われるFace IDを通じて、顔認証にはなじみがあります(ただし、Face IDは顔認証のアプリケーションの1つにすぎません)。一般的に、顔認証は、本人かどうかを判断するのに巨大な写真データベースに頼ることはせず、ある個人を、デバイスの唯一の所有者として単純に特定し、識別します。
携帯のロック解除以外でも、顔認証は、特別なカメラの前を通り過ぎる人々の顔を監視リストにある人々の画像と一致させて識別します。監視リストには、不正行為が疑われる人々に限らず、どんな人でも、また、出所もさまざまな画像、ひいては私たちのSNSアカウントの画像すら含めることができます。顔認証技術は多種多様ですが、一般的に次のように機能します。
手順1:顔検出
カメラが、単独あるいは群衆内の顔の画像を検出し、特定します。画像では、その人物は正面を向いている場合も、横向きの場合もあります。
手順2:顔分析
次に、その顔の画像が取り込まれ、分析されます。ほとんどの顔認証技術が、3D画像ではなく、2D画像を利用しています。2D画像の方が、公的写真やデータベースの写真と一致させやすいためです。ソフトウェアが、顔の形状を読み取ります。重要な要素には、目と目の間の距離、眼窩の深さ、額から頬までの距離、頬骨の形、唇や耳、頬の輪郭などがあります。その目的は、顔を識別するためのカギとなる顔の目印を特定することです。
手順3:画像をデータに変換
「顔の取り込み」プロセスでは、その人の顔の特徴に基づいて、アナログ情報(顔)を、一連のデジタル情報(データ)に変換します。顔の分析は、原則、数式に変換されます。その数値コードはフェイスプリントと呼ばれます。親指の指紋が固有であるのと同様、人にはそれぞれ固有のフェイスプリントがあります。
手順4:一致を見つける
フェイスプリントは、既知の顔の別のデータベースと比較されます。例えば、FBIは、各州のさまざまなデータベースから集めた6億5千万点に及ぶ写真を利用しています。Facebookでは、人の名前にタグ付けされたすべての写真がFacebookのデータベースの一部になっていています。これも顔認証に利用されている可能性があります。フェイスプリントが顔認証データベースの画像と一致すれば、認証完了です。
顔認証は、すべての生体測定の中で最も自然なものと見なされています。私たちは、通常、親指の指紋や虹彩ではなく、顔を見て自身と他者とを識別しているため、顔認証に直感的に納得できるのです。世界の人口の半分以上が定期的に顔認証技術に接していると推計されています。
顔認証の活用方法
顔認証技術はさまざまな目的に活用されています。以下に例を挙げます。
携帯のロック解除
最新のiPhonesなど、さまざまな携帯で、デバイスのロック解除に顔認証が使われています。この技術によって、個人情報を効果的に保護でき、携帯が盗まれた場合に機密データにアクセスされないよう守ることができます。Appleは、無作為の顔によって携帯のロックが解除される可能性は100万回に1回だと主張しています。
法の執行
法の執行によって、定期的に顔認証が使われています。これについてのNBCの報道によれば、米国の法執行機関で顔認証技術の活用が拡大しており、他の国でも同様だということです。警察は逮捕者の顔写真を収集し、地方や州、連邦の顔認証データベースとそれらを照らし合わせています。逮捕者の写真が撮られると、その写真がデータベースに追加され、警察が他の犯罪捜査を行う度に精査されます。
また、モバイルの顔認証により、警察官は、現場でスマートフォンやタブレット、他のポータブルデバイスを使ってドライバーや歩行者の写真を撮り、即座にその写真を1つまたは複数の顔認証データベースと照らし合わせて身元特定を試みることができます。
空港と国境の管理
顔認証は、世界中の多くの空港でよく見かけるようになっています。生体認証パスポートを持つ旅行者も増えています。お決まりの長い列に並ばなくて済み、自動化されたeパスポートチェックを通って素早くゲートにたどり着けるからです。顔認証は、待ち時間を減らせるだけでなく、空港にとってはセキュリティの向上にも役立っています。米国国土安全保障省は、2023年には旅行者の97%が顔認証を利用するようになると予測しています。空港や国境検問所でも、オリンピックといった大規模イベントでのセキュリティ強化に顔認証技術が活用されています。
行方不明者の発見
顔認証は、行方不明者や人身売買の被害者の発見にも活用できます。行方不明者がデータベースに追加された場合を考えてみてください。行方不明者が顔認証で認識されると、それが空港であろうと、小売店であろうと、公共の場であろうと、直ちに法執行機関に注意喚起することができます。
小売店犯罪を減らす
顔認証は、既知の万引き犯や小売店を狙う組織的犯罪者、詐欺の前科がある者が入店した場合にそれらの人物を識別するのに使われています。脅威となる恐れのある買い物客が入店した場合に万引きGメンやセキュリティの専門家に通知できるよう、個人の写真を膨大な犯罪者データベースに照らし合わせて一致するかを調べられます。
小売体験の向上
顔認証技術は、買い物客の小売体験を向上させる可能性があります。例えば、店舗内の自動販売機で顧客を識別させ、顧客の購入履歴に基づいて商品をすすめたり、顧客に正しい方向を示したりすることができます。「Face pay」技術なら、買い物客は、支払いに時間のかかるレジ待ちの列に並ばずに済みます。
銀行
生体オンラインバンキングも、顔認証がもたらすメリットの1つです。顧客は、ワンタイムパスワードを使用する代わりに、スマートフォンやPCを見るだけで、取引を承認できます。顔認証を使えば、不正アクセスするハッカー対策用のパスワードは不要です。ハッカーによって写真データベースが盗まれた場合は、(理論上は、)「ライブネス」検出(生体サンプル源が生きた人間か、作り物かを判断するのに使われる手法)によって、データベースがなりすましの目的で使用されるのを防ぐはずです。顔認証によって、デビットカードや署名を過去のものにすることもできるかもしれません。
マーケティングや宣伝活動
マーケティングの担当者は、顔認証を顧客体験の向上に活用しています。例えば、冷凍ピザブランドのDiGiornoは、2017年の販売キャンペーンに顔認証を活用し、DiGiornoをテーマにしたパーティに対する人々の印象を分析し、ピザに対する情緒反応を評価しました。メディア企業も顔認証を活用して、映画の予告編やテレビ番組のパイロット版、テレビプロモーションの最適配置に対する視聴者の反応を試験しています。顔認証技術を組み込んだ広告掲示板(ロンドンのピカデリーサーカスなど)では、ブランドがふさわしい広告を始動させることができます。
ヘルスケア
病院では、顔認証を患者のケアに役立てています。医療サービス提供者は、患者の記録へのアクセス、患者登録の効率化、患者の気持ちや痛みの検知にとどまらず、特定の遺伝的疾患の特定にも役立てようと試験中です。AiCureは、顔認証を使って患者が処方どおりに薬を受け取れるようにするアプリを開発しました。生体認証技術はそれほど高価ではなくなってきているため、ヘルスケア部門での導入の増加が見込まれます。
学生の出席や従業員の出勤の追跡
中国の教育機関のなかには、顔認証を使って 学生が授業をサボらないようにしているところもあります。タブレットを使って学生の顔をスキャンし、それらをデータベースの写真と一致させて本人であることを確認します。さらに、顔認証技術は、雇用主が出勤を追跡できるよう、従業員の職場への出退勤時刻の記入にも使われています。
運転者の識別
これに関する消費者レポートによれば、自動車メーカーは、車のキーに代わるものとして、顔認証を使って実験を行っているということです。キーの代わりに顔認証技術で車に乗り込んでエンジンをかけられるようになり、シートやミラーの位置、ラジオ局のプリセットといった運転者の好みも記憶できるようになるかもしれません。
ギャンブル依存症の監視
ギャンブル会社は、顔認証によって、顧客を高度に守ることができます。ギャンブルエリアへの立ち入りや移動の監視を人員が行うのは、カジノなどの混雑した広いスペースの場合は特に困難です。顔認証技術であれば、ギャンブル会社は、ギャンブル依存症として登録された人物を特定し、スタッフがやめる頃合いをアドバイスできるよう、プレーを記録できます。自己申告による入場制限リストにあるギャンブラーがギャンブルに夢中になった場合、カジノは多額の罰金を科される可能性があります。
顔認証技術の例
- Amazonはかつて、クラウドベースの顔認証サービスであるRekognitionを法執行機関に積極的に販売していました。しかし、2020年6月のブログ記事で、警察による同社の技術の使用を1年間停止する予定だと発表しました。人権と市民の自由を守るために連邦法を整備する必要があり、そのために必要な時間を考慮したからだと説明しています。
- Appleは、顔認証を使って、ユーザーが素早く携帯のロックを解除したり、アプリにログインしたり、買い物ができるようにしています。
- ブリティッシュ・エアウェイズは、米国からのフライトの乗客に対して顔認証を有効にしています。旅行者の顔をカメラでスキャンして本人であることを確認させ、パスポートや搭乗券を提示することなく飛行機に乗り込めるようにしています。ヒースロー空港発の国内便にも顔認証技術を活用していて、同空港発の国際線の生体搭乗に取り組んでいるところです。
- 米国に拠点を置く医療保険会社のCignaは、詐欺件数を減らすため、中国の顧客が、書面による署名ではなく、写真を使って署名することで医療保険の支払い請求を行えるようにしています。
- コカ・コーラは、世界中で、さまざまな方法で顔認証を活用しています。例えば、中国の自社の自動販売機のいくつかでリサイクルを行った顧客に見返りを与える、オーストラリアの自社の自動販売機でパーソナライズド広告を配信する、イスラエルの自社の自動販売機でイベントのマーケティングを行うなどです。
- Facebookは、2010年に米国で顔認証の使用を開始し、自社のタグ付け提案ツールで、写真に写った人々を自動的にタグ付けしていました。ツールがユーザーの顔をスキャンすると、人名タグが提案されます。2019年以降、Facebookは、よりプライバシーを重視するようにするための一環としてオプトイン機能を追加しました。Facebookは、顔認証のオプトイン/オプトアウトについての情報をここで提供しています。
- Google は、Google Photos に顔認証技術を組み込み、顔認証を使って、その人の認識に基づいて写真を分類し、自動的にタグ付けします。
- MAC make-upは、実在の店舗のいくつかで顔認証技術を活用し、店内の拡張リアリティミラーで顧客がバーチャル「お試し」メイクアップができるようにしています。
- マクドナルド は、日本の店舗で顔認証を活用し、そこで提供する顧客サービスの質を、従業員が笑顔で接客しているかどうかを分析するなどして評価しています。
- Snapchatは顔認証ソフトウェアのパイオニア企業の1つで、ブランドや組織が、ユーザーの顔に統合できるフィルターを作れるようにしてます。これにより、おなじみの子犬の顔や花の王冠がSNSに表示されます。
顔認証技術を提供するテクノロジー企業には、以下があります。
- Kairos
- Noldus
- Affectiva
- Sightcorp
- Nviso
顔認証のメリット
スマートフォンのロックを解除するだけでなく、顔認証によるメリットは他にもあります。
安全性の向上
政府レベルでは、顔認証はテロリストをはじめとする犯罪者の特定に役立ちます。個人レベルでは、個人のデバイスをロックするセキュリティツールとして、また、個人の監視カメラのセキュリティツールとしても活用できます。
犯罪の減少
顔認証によって、強盗や窃盗犯、侵入者を見つけやすくなります。顔認証システムがあるとわかるだけで、軽犯罪の場合は特に抑止力になります。物理的なセキュリティだけでなく、サイバーセキュリティにもメリットをもたらします。企業は、PCにアクセスするためのパスワードの代わりに顔認証技術を活用できます。パスワードの場合のように盗んだり、変更したりするものが何もないため、顔認証技術は理論上はハッキングできません。
職務質問の偏見を取り除く
不当な職務質問に対する社会的関心は、警察に対する論争の種になっています。顔認証技術を導入すれば、職務質問のプロセスは改善します。人手に頼らずに、自動化によって群衆の中から容疑者を見つけ出す顔認証技術は、潜在的な偏見も、法律に従う市民への職務質問も減らすことができます。
非常に便利
顔認証技術は広く普及しているため、顧客は、クレジットカードや現金を取り出すよりも自分の顔を使って支払うでしょう。そうすれば、レジ待ちの時間を省くことができます。顔認証には、指紋をはじめとするセキュリティ対策の場合に必要な接触が不要なため、コロナ後の世界では有用です。顔認証を活用すれば、素早くシームレスな自動の認証体験が得られます。
処理が迅速
顔認証にかかる時間はわずか数秒で、顔認証を利用する企業にとってメリットです。サイバー攻撃や高度なハッキングツールがある現代にあって、企業には、安全かつ迅速な技術が必要です。顔認証は、本人確認を迅速かつ効率的に行えます。
他の技術との統合が可能
顔認証ソリューションのほとんどが、他のセキュリティソフトと互換性があります。事実、統合も容易です。このため、他のセキュリティソフトウェアの導入に必要な追加の投資を抑えられます。
顔認証のデメリット
人前で写真を撮られることを気にせず、明確なメリットや理由がなくても顔認証を使用することに反対しない人もいる一方、そうでない人は、顔認証に激しい反応を見せるかもしれません。顔認証には、以下のようなデメリットや懸念事項があります。
監視
至る所にあるビデオカメラ、人工知能やデータ分析と共に顔認証が使われることは大規模な監視につながり、個人の自由を制限する可能性があると懸念する人もいます。顔認証によって、政府は犯罪者を見つけ出すことができますが、いつでも一般の罪なき人々を追い詰めることができるかもしれません。
誤差の範囲
顔認証に誤りがないわけではなく、誤りによって、犯していない犯罪に巻き込まれてしまう恐れがあります。例えば、カメラの角度が若干変わったり、ヘアスタイルを変えるなど、容姿が変わったりした場合、誤りにつながる可能性があります。『ニューズウィーク』によれば、Amazonの顔認証技術によって、米国の連邦議会議員28人が、罪を犯して逮捕されたと誤って特定されたということです。
プライバシー侵害
倫理とプライバシーは、最も議論の分かれる問題です。各国の政府は、本人の同意を得ることなく、複数の国民の写真を保存していることが知られています。欧州委員会は、プライバシー侵害や倫理的侵害を防止するための規制の枠組みを練り上げるための時間を確保するため、公共の場での顔認証技術の使用を最長5年間禁止することを検討していると2020年に明らかにしました。
膨大なデータストレージ
顔認証ソフトウェアは、正確な結果を生み出すための「学び」に大量のデータセットを必要とする、機械学習技術に依存しています。こういった大量のデータセットには堅牢なデータストレージが必要です。中小企業には、必要なデータを保存するだけのリソースがない可能性があります。
顔認証のセキュリティ – 自分自身をどう守るか
生体データは、一般的に、最も信頼性の高い認証方法と見なされていますが、重大なリスクを抱えてもいます。なぜなら、クレジットカード情報がハッキングされた場合には、被害を被った人は、クレジットカードを使用停止にして、漏洩した個人情報を変更するという措置を講じることができるからです。しかし、デジタルの「顔」が盗まれた場合、私たちに一体何ができるでしょうか?
世界中で、しばしば組織や各国政府によって、サイバーセキュリティの問題がありながら、増え続ける一方の生体情報が取り込まれ、保存され、分析されています。より一層問われる問題は、こういったデータを保存し、処理するインフラは一体どれほど安全なのかということです。
顔認証ソフトウェアは未だ比較的初期の段階にあるため、この分野に関する法律も策定中です(存在しない場合もままあります)。個人情報漏洩の被害に遭う一般人には、行える法的手段が比較的少ないのです。サイバー犯罪者は当局の手を逃れる場合もあれば、犯行後に数年の実行判決を受けるものの、被害者の方は補償も受けられず、何とか自力でやっていくしかありません。
顔認証はますます広まっていくため、詐欺を働く目的で顔のデータを盗もうとするハッカーの範囲も広がっていくでしょう。
包括的なサイバーパッケージは、オンラインのプライバシーとセキュリティを守るのに欠かせない要素です。お使いのデバイスをすべて保護し、ウイルス対策、ランサムウェア対策、モバイルセキュリティ、パスワード管理、VPN、ペアレンタルコントロールがすべて組み込まれた、カスペルスキーをおすすめします。
生体認証技術は、非常に説得力のあるセキュリティソリューションです。リスクはあっても、システムは使いやすく、複製も困難です。これらのシステムは今後も開発され続けていくでしょう。今後の課題は、メリットを最大化してリスクを最小限に抑えることです。
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